桜は、その優雅な姿と爽やかな色彩で、日本の春を象徴します。
しかし、その美しさだけではなく、桜の皮に抗菌性があるという驚きの事実があることをご存知でしょうか?
桜皮の抗菌性
JIS Z 2801:2000 2010年4月7日付「桜皮の抗菌試験」によって、ヤマザクラの樹皮である桜皮(オウヒ)には大腸菌、黄色ブドウ球菌に対して抗菌効果があることが測定されました。(財団法人 日本食品分析センター調べ)
桜の樹皮が抗菌性を持つ理由とは?
樹木にもたくさんの種類がありますが、どの種類の樹木の皮(樹皮)にもかなり多量に共通的に存在する一般的な成分として、多糖類(セルロースなど)、リグニン、樹皮フェノール酸、スベリンなどがあります。
多糖類やリグニンは、樹皮の内側の木部にも同様に存在しますが、『樹皮フェノール酸』や『スベリン』という分解されにくい成分も含まれています。
樹皮フェノール酸は、植物界に広く存在するポリフェノールの一種である『タンニン』が重合したものです。タンニンは収れん作用を持ち、口に入れると強い渋みを感じることが特徴です(赤ワインなどにも含まれていますね)。肌につけることで、毛穴を引き締める効果を持つため、化粧品などに配合されています。また、抗酸化力を持つことから、動脈硬化を防ぎ、生活習慣病予防や整腸、美白にも効果を発揮するといわれています。
また、数種の白色腐朽菌(糸状菌:カビの仲間)で樹皮フェノール酸を分解する実験では、リグニンに比べ著しく分解が困難であったという報告があります。
これらのことから、樹皮には微生物に分解されにくい物質が含まれるため、木部に比べて腐りにくいと考えられます。
参考文献:幡 克美(1967)樹皮の化学的性質,材料,16(169):777-783
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jsms1963/16/169/16_169_777/_pdf/-char/ja
参考:日本植物生理学会
https://jspp.org/hiroba/q_and_a/detail.html?id=5274&key=&target=
また、ヤマザクラの樹皮にはポリフェノールの一種であるフラボノイドである『サクラネチン』、『ゲンカニン』を含んでいます。
サクラチネンは、イネの生育に重大な被害をもたらす「いもち病菌」に対して抗菌性を示すことが知られています。
漢方役にもなる!?
また、サクラ(主にヤマザクラ)の樹皮は、「桜皮(おうひ)」という生薬として昔から使われてきました。
江戸時代の民間療法として桜皮はさまざまに応用され、日本漢方においては、桜皮を配合した十味敗毒湯(じゅうみはいどくとう)が軽度の化膿性湿疹や皮膚炎、蕁麻疹(じんましん)などに効果を発揮する薬味として配剤されました。
これらの効能をもたらすのも、ヤマザクラの樹皮に含まれるフラボノイドのサクラニン、サクラネチン、グルコゲンカニン、ナリンゲニンなどが関係しているようです。
以上のように、桜皮が抗菌性を持つ理由としては、樹皮が持つ成分、そしてヤマザクラだからこそ持つ成分が影響していそうですね!
抗菌性能が生活にも役立つ!
このヤマザクラの皮は生薬以外にも『樺細工(かばざいく)』という工法により、さまざまな製品にも活用されています。
樺細工は、山桜の樹皮を用いた世界で唯一無二の工芸で、その語源は万葉集の長歌の中で、山桜を「かには」と表現したものが後に「かば」に転化したと言われています。
樺細工は素材の美しさが魅力の工芸品ですが、同時に抗菌性をはじめとした優れた素材の性質の上に成り立っています。その特徴のひとつが、湿気を抑えてくれる性質です。
印籠、薬篭、胴乱、茶筒と時代と共に特徴を活かした製品が生み出され、伝統の技術が受け継がれてきました。
茶筒のように日々手に触れるものは光沢を増し、山桜独特のつやを保ちます。
樹皮からのモノづくり
ヤマザクラの樹皮は、代々受け継がれてきた技術で剥がすと、数年で再生し、樹木を枯らすことはありません。
そして丁寧な乾燥と加工により、ヤマザクラの樹皮が持つ抗菌性などの機能性を活かした製品となります。
海外からも注目!?
日本国内だけでなく、樺細工は海外でもその魅力を認められ、愛されています。
その美しいデザイン、手触り、そして何と言っても抗菌性や吸湿性を持つという特性が評価され、様々な商品が海外からのお客さんにも人気のようです。
日本で古くから茶筒として使用されているものが「コーヒー豆の保存」に使用されたり、スマートフォンのケースやアクセサリーに時代や文化に応じたさまざまな活用がなされています。
木の持つ機能性や魅力がたくさんの人に伝わり、そしてそれを育む山、森林の良い環境を次世代につなげていきたいですね!
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