森を育てる技術「枝打ち」

皆さんは「枝打ち」という言葉を聞いたことがありますか?木を切る「伐採」はよく知られていますが、実はその前から、森の健康と未来の木材を守るために欠かせない、地道で大切な作業があります。それが「枝打ち」です。今回は、あまり知られていないけれど、森の恵みを最大限に引き出すための、林業における枝打ちの役割と魅力についてご紹介します。
枝打ちとは?
枝打ちとは、成長途中の木の不要な枝を、下から順番に切り落としていく作業のことです。一本一本の木と向き合い、適切な時期に、適切な量の枝を切り落とす。まさに森を育てる匠の技と言えます。
「え?木を切るのはわかるけど、枝をわざわざ切る必要があるの?」
そう思われた方もいるかもしれません。実は、この一見無駄に見える作業には、「良質な木材を育てること」と「健全な森を維持すること」という、二つの大きな目的が秘められています。
良質な木材を育てる役割
私たちが普段使っている木材には、たくさんの種類があります。家具、家屋、楽器など、その用途は様々ですが、どの製品にも共通して求められるのが「強度」と「美しさ」です。
木材の美しさを損なう原因の一つに「節(ふし)」があります。節は、枝が幹に巻き込まれてできるものです。特に、家具や内装材として使われる木材は、この節が少ないほど価値が高くなります。枝打ちは、この節の原因となる枝を早期に除去することで、節のない、まっすぐで美しい木材を育てるために不可欠な作業なのです。
また、枝を切り落とすことで、木は成長エネルギーを幹に集中させることができます。これにより、まっすぐで質の高い、均質な木材が育ちます。
健全な森を維持する役割
枝打ちは、木材の品質向上だけでなく、森全体の健康を守る上でも重要な役割を果たします。
- 日光を林床に届ける
枝打ちをすることで、林床(りんしょう:森林の地面)にまで光が届くようになります。これにより、下草や低木などの下層植生が豊かに育ちます。これらの植物が地面を覆うことで、大雨が降っても雨水が直接地面を叩くのを防ぎ、土壌の流出や浸食を防ぐ効果があります。森の地表が健全に保たれることで、水源涵養能力(森林の土が水分を含み蓄える能力)も高まり、私たちの生活を支える豊かな水を育むことができます。 - 作業がしやすく、安全な森へ
枝打ちされた森は、見通しが良くなり、人が入りやすくなります。特に植林後初めて行う枝打ちはヒモウチ(裾払い)とも呼ばれ、1~2mの高さの枝を落とします。これにより、林業作業員がより安全に、効率的に作業できるようになります。間伐や植林など、他の林業施業もスムーズに行えるようになるため、森全体の管理が行き届きやすくなります。
このほかにも、枝を地面に落としそれが分解されることで土壌に栄養を与える役割や、枯れ枝を除去することで風雪害や山火事発生を予防する役割もあるとされています。
枝打ちの注意点
良い木材を得るために欠かせない枝打ちですが、注意しなければならない点もあります。
一つはその実施時期です。樹木の活動が盛んな夏に枝打ちをすると、細胞が若く組織が弱いため、樹皮が剥けて傷つく可能性が高いため、晩秋から初冬に行うのが良いとされています。
また、枝打ちは全ての樹木の枝を切ればいいというわけではありません。森の端、特に風の強い場所に位置する木々(林縁木)には、枝を多く残すことがあります。これは、風に対する抵抗力を高め、強風による風倒木を防ぐためです。枝を多く残すことで、木全体で風の衝撃を受け止め、倒れにくくなります。
枝打ちの計画は、季節やその森が置かれた環境を考慮しながら、慎重に立てる必要があります。
まとめ
枝打ちは、地道で手間のかかる作業です。しかし、この手作業によって、日本の木材は世界でも高く評価される品質を誇っています。職人の目と手で一本一本丁寧に育てられた木材は、私たちの家や家具、そして暮らしを豊かに彩ってくれます。
《参考》
森林・林業実務必携 朝倉書店